横顔の話

『羅生門・鼻』(芥川龍之介/新潮文庫)を読んでおくと
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これはようさんの2人の友達――ゆんみるとちーことの間に交換された、ある無駄話の一節である。

ゆんみる:
「ねえねえ、ちーこってなにか特別な肌のお手入れしてるの?」

ちーこ:
「え、特にはしてないけど」

ゆんみる:
「本当にぃ~? ちーこって昔から肌きれいだよね~。そういう体質に生まれてるの~? あー、うらやましい」

ちーこ:
「なになに、どうしたの急に」

ゆんみる:
「私、ただでさえ狐みたいな目をメイクでごまかすのに必死なのに、ここのところニキビもひどくって~。それに比べてちーこは、おめめぱっちりのすっぴん美人じゃない? 本当、不公平~」

ちーこ:
「そんなことないって」

ゆんみる:
「いやあるね! それに、目の形はメイクでカバーできても、鼻の形はもうどうしようもないんだもん! あと、鼻筋から顎にかけてのライン? 私、横顔コンプレックスなの」

ちーこ:
「そう? そんなに変じゃないけど。どんな鼻が理想なの?」

ゆんみる:
「そうね、今までに出会ったなかだと…。ようさんの鼻が好きだなあ」

ちーこ:
「ようさん?」

ゆんみる:
「うん! ようさんの鼻って、お父さん似だと思うの…」

ちーこ:
「それって結局、あいつの親父さんのことが好きなだけじゃね」

ゆんみる:
「言っとくけど、変な意味じゃないからね! 私はようさんのお父さんのファンなの!」

ちーこ:
「ファンになったのって最近だったよね?」

ゆんみる:
「実は、私がまだ小学生の頃、家族でようさんのお父さんが主演の舞台を見に行ったことがあってね。冤罪で島に流されたお坊さんの話だったんだけど、そのときは2階席だったからあんまりお顔が良く見えてなくて。でも、そのあとテレビで別の舞台映像が放送されたとき、お歌や演技が超かっこ良くて、そのときからあの人が私のご贔屓様に決まったの。この人になら、命を奪われてもいいなって思ったもん。高校に上がってようさんがご贔屓様の息子だって知ったときは本当にびっくりよ。運が良ければ本人に会えるかもって期待しちゃった」

ちーこ:
「ま、結局会えなかったけどね」

ゆんみる:
「ご贔屓様は今でもバリバリ現役の舞台俳優さんだから、お稽古でお忙しいんですぅ~!」

ちーこ:
「ようさんのことは好きにならなかったの?」

ゆんみる:
「うん。ようさんはようさん、ご贔屓様はご贔屓様だから」

ちーこ:
「ふ~ん」

ゆんみる:
「ご贔屓様は横顔が彫刻のように美しいの…。年齢を重ねた今でもその美しさは健在で、ますます色っぽくなってきたというか…。役でお髭を生やしたときも、とっても似合っててダンディだしぃ~。あの色気を目の当たりにしたら、アンチもきっと寝返るに決まってる!」

ちーこ:
「そうなんだ」

ゆんみる:
「最近は少し声がかすれてきたんじゃないかって言う人もいるけど、かすれてるところがまたセクシーなんじゃん、みんなわかってないなあ。私は、そこも含めて受け入れちゃうから!」

ちーこ:
「おおん…」

ゆんみる:
「あのね、初心者用のバイオリンと年季の入った高級バイオリンを比較すると、みんな初心者用のほうが音がきれいに響いて聞きやすいって言うでしょ? でもね、高級なのはそっちじゃないの。ちょっと音に引っかかりみたいなのを感じるほうなのよね~。それが深みってやつなの。つまりはそういうこと。ちょっと、聞いてる?」

ちーこ:
「ご贔屓様への愛は伝わったよ」

ゆんみる:
「それでね、あの美しいご贔屓様にふさわしい女になれるように色々頑張ったんだけど、横顔ってやっぱ無理なの!特に鼻は! あれはどうにもできない! でもね、最近私思うんだけど、個人的にはぜんっぜん気に入らない鼻でも、もしご贔屓様が私に向かって『かわいい鼻してるね…』ってささやいてくれたらもうね! 自分の鼻好きだなってなるよ、なっちゃうよ、なるに決まってるじゃん!」

ちーこ:
「何の話だよ、単純だな~」

ゆんみる:
「いやいや、人間、コンプレックスなんてそんなもんだって! 肯定してくれる人がいてくれるだけでいいの」

ちーこ:
「でもあんたの場合、そのご贔屓様と話す機会ないんだし、肯定してくれる人実質いないじゃん」

ゆんみる:
「え…。う、うるさい。いいの! いつかお目にかかれるって信じてるんだから。観音様にお祈りしちゃうんだから」

ちーこ:
「ま、肯定してくれる人がいるだけでいいって気持ちはわからなくもないけど」

ゆんみる:
「でしょでしょ! あ、ちーこのことは私が肯定してあげるから心配しないでね?」

ちーこ:
「はいはい、ありがとね」

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