フェアリー・ゴッドマザーがやってくる人の話


「やっぱりプリンセスストーリーって憧れるよね~! 運命の王子様に出会って人生が変わるなんて素敵!」

とかいう、相変わらず夢見がちなゆんみるの話にさんざん付き合わされたのが先月のこと。

あたしは彼女と違ってプリンセスにも王子様にも憧れてないから、ひたすら聞き役に徹するしかなかったけど。

でも、あたしだって別にプリンセスが嫌いなわけじゃない。

例えば、有名なディズニープリンセスでいえば、あたしはシンデレラが好きかな。

「シンデレラストーリー」という表現があるくらい、プリンセスストーリーのなかでも王道なのがシンデレラだと思う。

でも、最近はラプンツェルやモアナみたいな、積極的に行動して自分の人生を切り拓くプリンセスやヒロインのほうが目立つ。

それに比べてシンデレラは、一見すると受け身の女性で、自分を幸せにしてくれる誰かがやってくるのを待っているだけのように思われることもある。

確かに、自分なりの信念を持って行動するプリンセスたちは強くてかっこいいと思う。

でもあたしは、シンデレラだって強い女性だと思っている。

彼女のもとにフェアリー・ゴッドマザーがやってきて王子様と結婚することになったのは、ただの偶然なんかじゃない。

シンデレラの芯の強さと優しさが引き寄せたんだと思う。

シンデレラは意地悪な継母や姉たちにいじめられていたけれど、お城で舞踏会が開かれるとわかったとき、彼女たちに対して「私にも舞踏会に行く権利がある」と堂々と主張している。

また、王子様との結婚が決まったときもその後も、彼女は決して継母たちに復讐しようとは考えず、これまでの出来事をすべて許すのだ。

あたしもかつて人から嫌がらせを受けたことがあった。

嫌がらせされることが当たり前の状態になっていくと、自分の意思を主張する勇気がなくなってくる。

弱い立場に置かれると、正しい意見でさえ主張することができなくなるし、保身を優先させるあまり相手の顔色をうかがって自分でも訳のわからないことを口走るようになる。

もしあたしがシンデレラだったら、お城で舞踏会が開かれるとわかっても、「どうせあたしは行かせてもらえないだろう」なんて考えてしまって、はなから行きたいなんて言い出せずに終わっていたと思う。

そのくせあたしは生意気にも、嫌がらせしてくる人たちに対して「不幸になればいいのに」といつも願っていた。

もちろん、こんな心の狭いあたしに救世主が現れることはなく、結局その環境から逃げ出すしかなかった。

けれど、逃げ出してからも復讐心が消えることはなく、あたしは自分に失望した。

今でも完全には忘れられていないと思う。

それからだ、あたしがシンデレラの強さと優しさを尊敬するようになったのは。

シンデレラが勇気を持ち続けることができたのは、彼女が本当の優しさを持っていたからだと思う。

人の不幸を願ったり、復讐の機会をうかがったりするのではなく、どんな人にも優しくできたら、自分の行いに自信が持てたら、きっと勇気を失うことはない。

辛い状況だけに目を向けるのではなく、自分らしさと勇気を失わずに、夢と希望を信じることができたら、きっと自分だけの幸せを見つけられる。

自分の幸せは誰にも奪えないとわかったら、他人の不幸は自分の幸せに繋がらないとわかったら、きっと人を許すこともできる。

すべて繋がっているのかもしれない。

そしてきっと、そういう優しい人のもとにしか、フェアリー・ゴッドマザーはやってこないのだ。

頭ではわかっていても簡単にできることじゃない。

だからやっぱり、あたしはシンデレラには…。

ああいけない、昔のことを1人で考えているとまた気分が落ち込んでしまう。

こんなのあたしらしくない。

ゆんみる、もう家にいるかな…。

こんなとき、あたしの気持ちを晴らしてくれるのはあいつしかいない。

「…もしもし、ゆんみる? 今電話大丈…」

「ちーこぉ…。ごめん…。今は…。」

スマホから聞こえてきたのはゆんみるの泣きじゃくる声。

…え? 何があったの?

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かなづち

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