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委員長の思いもよらない言葉に吹き出してしまった。
はあ!?
パラレルワールドに転送された!?
「笑い事じゃないの! 本当なの!」
委員長は地団駄を踏んで怒っているご様子。
「あはははははっ、いやいや、あー、ごめんごめん」
怒られても笑いは止まらない。
委員長のセリフを思い出せば思い出すほど笑えてくる。
決してからかっているわけではないのだが、どうやら彼女の機嫌を損ねてしまったらしい。
「もういいっ!」
委員長はきびすを返して行ってしまった。
ドアを閉めると、俺の笑い声を聞きつけただいだいが浴室から出てきた。
「ようさん、どうしたの? 彼女は?」
「いや、それがね…」
説明しようとしたところで、再びだいだいのスマホが鳴った。
委員長からだ。
『だいだい』
「うん、どうしたの?」
『大変なの』
「どうした」
『あのね、私、だいだいがいるのとは違う世界に来ちゃったみたい』
「は?」
驚きのカミングアウトに、だいだいの表情も緩んできている。
『あのね、今私がいる世界だと、323号室にはようさんが泊まってることになってて、私とだいだいはそもそも旅行に来てないっぽいの』
「はあ」
『なんとか頑張ってそっちの世界に戻るから、もうちょっと待っててね』
「うん…」
だいだいは電話を切り、俺に向けて
「頑張ってこっちの世界に戻ってくるって」
と言うとやっぱり吹き出した。
委員長本気で信じちゃってるよ、あれ…。
天然なんだね?
でも、笑ってばかりはいられない。
次に委員長が戻ってきたときには、だいだいに出迎えてもらって、ドッキリを終わらせよう。
そうしないと、委員長がどんどん異世界に行ってしまう。
俺たちはだいだいと委員長の荷物を元に戻し、自分の荷物をべーもんのいる部屋に持って行った。
本当なら俺も部屋に戻っているべきだったけど、予想外の委員長の反応が面白くてもう少し見てみたくなったので、今度は俺がだいだいの部屋の奥のほうに隠れることにした。
部屋のチャイムが鳴り、だいだいがドアへと向かうと、俺は2人の会話に聞き耳を立てた。
どうやらだいだいはすんなり委員長を部屋に迎え入れたようだ。
ドタドタと物が落ちる音が聞こえる。
「どんだけお茶買ってきたの」
「なんか6本も買わなくちゃいけなくなって…」
6本!? また買ったの!?
別に買わなくちゃいけないことにはなってないはずなんだけど…。
俺は笑いそうになるところを必死でこらえた。
続けて聞こえてきたのは委員長の泣きそうな声だった。
「そんなことよりだいだい~。やっと帰ってこられた~。もう会えないんじゃないかと思ったよ~。あっちの世界の私がこっち来てなかった?」
「ちょっと何言ってるかわかんない」
「自動販売機から部屋まで戻ってくる間のどこかで、時空が歪んでたみたいなんだよね」
「いや、なんでそうなるの」
時空が歪んでたってなんだよ。
こっちは笑い声を出さないようにするのに必死で苦しい。
だいだいは笑いながら委員長に的確に突っ込んでいる。
こんなリラックスした委員長の口調もだいだいの突っ込みも初めて聞いた。
だが、委員長の天然っぷりは止まらない。
「だってさ、ここ、初めて来る土地でしょ? ちょっとしたところにパラレルワールドの入り口があってもおかしくないと思うの」
「そうですか…」
「それにしてもマジでやばいね! びっくりしたわ~。あとで口コミチェックしよ~」
「いやいや、ホテルの口コミサイト開いて、口コミに『このホテルに宿泊したらパラレルワールドに転送されました』って書いてあったらとんでもねえって」
ようさんは空になった牛乳瓶を片手に豪快に笑い転げている。
僕としても、あの委員長がドッキリを疑わずにパラレルワールドに転送されたと思い込むなんて、意外だった。
無表情の裏で実は想像力が豊かなんだと思うと、なんだか微笑ましい。
「それで、ドッキリばらしたあとは大丈夫だったの?」
「ああ、そのあとね。俺がベッドの後ろから出てきたのを見て、委員長はびっくりしてたよ。会話を聞かれてたのを知ってガードを解いたのか、普通にすねちゃってさ。べーもんも呼んで謝ったんだけど、なかなか許してくれなかったの。ああなると普通の女の子だね」
「へ~。でも素顔見せてくれるようになったのは良かったじゃん」
「うん。委員長が俺らにも気を許してくれて嬉しかったよ。それでさ、どうしたら機嫌直るかを必死で考えたんだけど、女の子って大体スイーツ好きじゃん? 委員長に当てはまるかわかんなかったけど、近くのおしゃれなカフェ探して、次の日連れてってあげたんだよ。そしたらやっぱりスイーツ好きだったみたいでさ。コロっと機嫌直っちゃったよ」
「そこは単純なんだ」
「そのカフェがさ、またすごいパステルって感じの店で、女性客しかいないようなところなんだよ。まあね? 委員長の機嫌を直すためだからしょうがないんだけど、俺ら男3人は居心地悪くってさあ。俺らが気まずい感じになってるのを見て、委員長はさらにご機嫌そうにしてたよ」
「はは、罰が当たったね」
「おかげで、また一緒に旅行に行ってあげても良いとのお達しが出た」
「良かったじゃん! いいな~。僕も久しぶりに委員長とだいだいに会いたいな」
「べーもんには会わなくていいのかよ」
「べーもんといると僕も面倒に巻き込まれそうだから」
「確かに」
僕らは笑いながら牛乳瓶をケースに返却し、一緒に銭湯を出た。
近くに座っていた中学生くらいの男女もちょうど銭湯を出るところだった。
仲良さそうに話しながら歩いて行く2人の姿を、僕は記憶の中のだいだいと委員長に重ねて合わせて見送った。