父親に電話した話

『トランスヒューマンガンマ線バースト童話集』(三方行成/早川書房)を読んでおくと
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あごめん父さん、急に電話しちゃって。

俺だけど。いや詐欺じゃないから!

スマホに番号出てんだろ。

今忙しい? …そっか。

実はさ、自動車事故を起こしちゃって、お金が…。

いや、嘘だから! 冗談!

ちょ、切んなって!

冷たいな~、久しぶりの息子からの電話だってのに。

もーちょっと付き合ってくれても…。

いや別に、これといった用はないんだけどさ。

なんか時間できたから久しぶりに電話してみようかなーと思って。

…母さんは元気? …うん。良かった。俺?

俺もまあ、いつも通りだよ。…え?

どうせカップラーメンばっかり食ってんだろって?

図星だけどさ…。いやいーだろ別に…え?

そっちは母さんの手料理食ってる?

なんで息子に自慢してんだよ。

そんなことより、父さんしばらく家にいるんでしょ?

…まあ、せっかくの機会なんだから、久しぶりに母さんとゆっくり過ごしなよ。

仕事始まったら、また全国飛び回ってなかなか帰ってこられなくなるんだろうしさ。

今は俺も独り暮らしだし、母さんも寂しい思いしてると思うから。

…うん。…え? 家で楽しく過ごす方法?

まあ、テレビとかDVDとか…。

え、もう飽きた?

いやー、そう言われてもさ…。

あとは…ぬいぐるみと戯れるとか?

…いやそこ突っ込むところだから。

冗談だよ、冗談。

本当に父さんがぬいぐるみに泣き言言ってたらすぐ母さんから電話くるから。

「どうしようお父さんがおかしくなっちゃった、あんな姿のお父さん見てたら私までおかしくなりそう」つって。

…あでも、家にあるぬいぐるみとか動物のフィギュアとかでちょっとしたストーリー作ってあげたら、母さん喜びそうじゃない?

ほら、ディズニーのホテルにぬいぐるみ置いたままパークへ遊びに行って、夜部屋に帰ってきたらぬいぐるみがポーズとってた話なんか有名じゃん?

あんな感じでさ、毎日ちょっとずつぬいぐるみとかフィギュアとか動かしてストーリー展開していったら母さん絶対喜ぶよ。

父さんそういうの考えるの得意っしょ?

話題作りにもなるしさ。

まとまった時間できるといろんなこと考えちゃうし、ネットの悪意に触れるとどんどん気分沈んでいくから、父さんも楽しいこと考えてたほうがいいだろ。

…でもさ、思ってたより元気そうで良かったよ。

…え? だってさ…。

父さんがこんなに長い期間仕事しないの初めてだし、どうせ体がなまっちゃうんじゃないかとかお客さんのこととか、色々考えちゃってんだろうなーと思って。

いくらトランスヒューマンな父さんでも今回は…。

え?

いやだって、父さんいつも周りに不安そうな顔とかイライラしてる顔とか見せないし、休みなしに働きまくってるだろ?

だから俺、父さんって本当は人間じゃないんじゃねえかなと思って…。

いや、これマジで!

でもそうやって忙しくしてるうちは元気でも、休みになって気が緩んだ途端に体調崩すこともあるって聞くからさ。

…本当に~?

自分が人間だってこと忘れてない?

…うん、ならいいけど。

状況が状況なんだから、無理しないで不安なことは母さんにも相談しろよな。

ストレスたまりすぎて次会ったときにすごい老け込んでたら俺も嫌だし。

一応、友達の間でも自慢の父さんで通ってるんだからさ。

…いやいや本当に。

みんないつも通りの父さんが職場復帰してくれるの待ってるんだから、それまで頼みますよ、マジで。

…言われなくてもわかってる?

はいはい、余計なお世話でしたー。

…誰が親子逆転してるだよ、うるさい。

…え、俺?

父さんの息子なんだから、父さんが大丈夫なうちは俺も大丈夫だよ。

…うん。じゃあまた電話する。

はーい。じゃあ。

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