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本物はわずか数人!偽物に騙される前に知っておきたいイタコの真実

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故人を自らに憑依させるイタコ。

名前を聞いたことがあるという人は多くいると思いますが、その実態についてはどこまで知っているでしょうか。

「怪しげな宗教?」「時代遅れでは?」などと思う人もいるかもしれません。

確かに今、イタコの数は減少していますが、決して危ない宗教ではありません。

本物のイタコは社会において大切な役割を果たしている、守っていくべき文化なのです。

一方で、イタコがあまりなじみのない存在になった現代では、勝手にイタコを名乗り詐欺を行う偽物も登場しています。

そこでこの記事では、イタコの歴史や能力、存在意義や直面している課題などについてまとめました。

ぜひこの機会にイタコの真実を知り、本物のイタコへの理解を深めてみてください。

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盲目の女性が自立する手段だった――イタコの定義と歴史

イタコとは、南部地方で活動する巫女の一種で、自らに故人を憑依させることで故人からの言葉を伝える「口寄せ」を行う盲目の女性です。

その語源には諸説あり、「斎(いつ)く」が訛ったとする説、アイヌ語のitak(語る、宣う)から作られたとする説などがあります。

イタコの起源は縄文時代にまで遡ります。

当時の人々は目に見えない災いから身を守るために、特殊な力を持つ存在に相談し、災いを防ごうとしていました。

そこから故人の魂と会うための方法が模索され、現在の「口寄せ」が生まれたとされています。

その後、一族をまとめるための神様であるオシラサマが誕生し、南部地方で広く信仰されるようになりました。

オシラサマには頭巾をかぶった包頭型と頭が出ている貫頭型の2種類があり、女性と男性が2体そろった神様です。

蚕の神様や馬の神様、目の神様といったさまざまな説があります。

家を守る神様でもあり、通常は神棚ではなく、その隣に観音様や国造様と同じように祀ります。

日本で一番古いオシラサマは550年ほど昔のものといわれており、イタコはオシラサマを遊ばせて家族の絆を深める「オシラサマアソバセ」という儀式や、一族郎党が飢え死にしないための五穀豊穣の祈願を行う役割を持ちました。

また、江戸時代中期には、南部地方に太祖婆(たいそばあ)と呼ばれる盲目の巫女が存在し、彼女が山伏修験とその妻で盲目の女性にイタコの技法を伝え、その2人が盲目の女性を組織化したことで、イタコが職業化されたといわれています。

その後、弟子が弟子を取る形でイタコ文化は現代まで伝承されてきました。

実は故人の口寄せを行う巫女は南部地方に限らず、地域ごとに違う呼称であまた存在していたのですが、江戸時代から師弟関係がはっきりわかるという点で南部の歴史的伝統的イタコは他と大きく異なります。

イタコが目の見えない女性の仕事になったのには、地域における弱者救済システムという側面もありました。

当時の東北地方でははしかの影響で視力を失う子どもが多くおり、彼らの自立が課題となっていたのです。

そのなかで、男性は鍼灸や按摩、三味線弾き、女性はイタコが職業として広がっていきました。

明治時代の終わり頃には、日露戦争や日清戦争で亡くなった人々の声を聞きたいという人たちのために、イタコが口寄せを行いました。

昭和30年代から40年代にかけては晴眼のイタコも登場し、合計で数十人のイタコが南部地方に存在したといわれています。

イタコは南部地方や津軽地方で一般的な存在になり、特に恐山はイタコの集まる「イタコマチ」として全国的に知られるようになりました。

そのきっかけとしては、映画『田園に死す』(監督・脚本:寺山修司、1974年公開)にイタコが登場したことや、旧国鉄が展開した「いい日旅立ち」キャンペーンで取り上げられたことなどが挙げられます。

実際は恐山以外にも複数の「イタコマチ」が存在していたのですが、現在はほぼ消滅してしまいました。

また、イタコと恐山に直接の関係はありません。

普段自分の街に住んでいるイタコが営業のために恐山に出向き、口寄せを行っているだけなのです。

今でも、イタコが集まる恐山大祭と恐山秋詣りの期間中は、故人の声を求めてたくさんの人々が行列を作るといいます。

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生者の魂も降ろせる――イタコの能力

イタコの能力としてよく知られているのは、故人の魂を降ろして自身に憑依させ、自らの口を通して故人の言葉を伝える口寄せでしょう。

「イラタカ数珠」という長い数珠を手で擦り合わせながら経文を唱えることで、イタコは依頼者の望んだ故人の魂を呼び出します。

数珠の音が鳴り響くなかでひたすら経文を唱えているうちに、イタコはトランス状態に入って故人とつながります。

すると故人の霊魂がイタコの身体に乗り移り、イタコ自身の口を借りて依頼者に語りかけるのです。

また、ときには口寄せで生きている人間の魂を降ろしたり、祖霊や神仏を降ろしたりすることで占いをすることもあります。

占いたい事柄に応じた神仏を降ろすことで、悪い物事を祓って物事の吉凶を占うのです。

さらに、数珠で身体をお祓いしたり、虫歯や火傷、高血圧など、身体の部位や依頼者に合わせた呪文を唱えてお祓いしたりすることもできます。

そのほか、イタコは1月15日あたりの小正月に「オシラサマアソバセ」を行います。

イタコが家を訪問して2体のオシラサマを手に持ち、経文を唱えながらオシラサマを動かして遊ばせる神事です。

こうすることで、その家に祀られたオシラサマを起こし、穢れを祓って家庭の繁栄や五穀豊穣を祈願します。

また、オシラサマという神様の力を借りて一族の中で争いごとの原因となっている人に注意を促し、一族の結束を高めるという意味もあるといいます。

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カウンセラーとしての役割――イタコの存在意義

イタコの存在意義は、悲しみの共有と癒し、いわゆる「グリーフケア」にあるといわれています。

悩みを抱える人がイタコを通じて故人と話したり、イタコ本人と話したりすることで、気持ちを落ち着かせることができるのです。

愛する人や親しい人を失えば、誰でも心に空白が生まれるもの。

そんな人々にイタコが優しく語りかけます。

「あの世で元気にしているよ」

「呼んでくれてありがとう」

これらの言葉が懐かしい故人を思い出させ、生きている人の心を温かくすることで、人々は悲しみを受け入れ、未来へ向かう新しい一歩を踏み出せるようになります。

また、イタコはもともと、嫁姑関係や夫婦関係、健康問題など、人々が外で話しにくいような悩みに乗ってくれる地域の相談役、カウンセラーのような存在でした。

イタコは祖霊や神仏の声を伝えてくれる存在であり、イタコに相談するということは祖霊や神仏に相談するということでもあります。

嘘をついたり隠し事をしたりしたら罰が当たる可能性もあるため、人々はイタコに心を開き、本音で話します。

結果としてストレスが発散され、心の健康を取り戻すことができるのです。

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イタコと霊感は関係ない――イタコになる方法

イタコは生まれつき故人を呼び出せる能力者ではありません。

師匠イタコに弟子入りし、修行をして技能を身につけた技能者です。

師匠からの伝承はイタコにとって特に重要で、南部の歴史的伝統的イタコはみな師匠の系譜を辿ることができます。

そして、免許皆伝の証として「オダイジ」という竹筒と「イラタカ数珠」という長い数珠を持っています。

「オダイジ」は神仏とつながるための道具です。

中には師匠イタコが選んだ経文の一部が入っており、新たなイタコが悪霊や生霊に取り憑かれないよう守る役割もあります。

また、「イラタカ数珠」はムクロジの実をつなぎ合わせてできた数珠で、両側にはお祓いや悪魔払いのための猪の牙や鹿の角、三途の川の渡し船賃である寛永通宝などの古銭がついています。

これらは師匠から受け継がれるもので、歴史的伝統的イタコであることの証拠でもあります。

そのため、霊感が強いからといって勝手にイタコを名乗れるわけではないのです。

イタコに必要なのは霊感よりもむしろ記憶力と忍耐力だといわれています。

一方で、かつては目が見えない女性の職業として広まったイタコですが、現在は晴眼のイタコもおり、目が見えるかどうかはあまり関係ありません。

イタコになるためには、水垢離(みずごり)と呼ばれる修行が行われます。

本来は小さい桶で33杯分の水を朝昼晩にかぶる修行ですが、一升のバケツ3杯に簡略化されることもあるそうです。

また、滝行を行うこともあります。

さらに、イタコになるには口寄せやおはらいのための経文、神事のための祭文などを何十種類も覚えなければなりません。

それらは師匠からすべて口伝で伝承されます。

般若心経や観音経などの経文、神社で唱える祝詞のほかに、お祓いや占いの方法なども学びます。

これらの修行は師匠と共に暮らしながら行われ、独り立ちするまで2、3年かかるそうです。

また、イタコの修行では、風の音や鳥のさえずり、花の咲き具合や天候の変化などからなにを感じることができるか、感覚を研ぎ澄ませることも重要です。

例えば、桜が例年より早く咲いたら、それはある作物にとっては生育不良につながる気候になっている兆しかもしれません。

イタコは訪れた人にとってその1年が良い年か悪い年かを感じ取り、予知できるようになる必要があります。

イタコはもともと目が見えない人の職業なので、花の香りを感じる嗅覚、鳥のさえずりを聞く聴覚を研ぎ澄まし、それらを感じて次の出来事を予測する訓練が必要なのです。

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師匠イタコがいない――イタコが直面する課題

イタコは今、絶滅の危機に瀕しています。

かつて、青森県の南部地方にはたくさんのイタコがいました。

しかし現在、青森県いたこ巫技伝承保存協会が定義する歴史的伝統的イタコはわずか数人しかいません。

なかでも盲目のイタコは1932年(昭和7年)生まれの中村タケさん1人だけです。

イタコたちの高齢化が進んでいるうえに、師匠イタコの後継者がいないことも大きな問題となっています。

2000年代前半に最後の師匠イタコが亡くなったことで、イタコの技能を伝えられる人がいなくなってしまったのです。

そのため、1972年(昭和47年)生まれでイタコのなかでは最年少の松田広子さんが「最後のイタコ」と呼ばれています。

ではどうしてここまでイタコの数が減ってしまったのでしょうか。

その理由のひとつとして、「オシラサマアソバセ」などの儀式を行う機会が減ってきていることが挙げられます。

本来、「オシラサマアソバセ」の際には本家・分家といった親族や隣近所の人たちなど、合計で30~50人が集まります。

しかし、核家族化や多様な働き方の増加により、親族一同が集まるためにはお金も時間も労力もかかるようになってしまいました。

これにより、本来一族の結束を深める役割を果たしていた「オシラサマアソバセ」の機会が減少してしまったのです。

結果として「オシラサマアソバセ」を行うイタコも減りました。

また、食糧事情や医療環境の改善により、はしかなどで失明する子どもの数が減少したこともイタコが少なくなった理由のひとつです。

さらに、職業の選択肢が増えた現代では、たとえ盲目であってもイタコになる必要はないため、なり手も見つかりにくい状況です。

青森県いたこ巫技伝承保存協会はイタコの伝承と保存を進めています。

しかし、先に紹介したように、イタコは勝手に名乗っていいものではなく、師匠からの伝承が重要です。

イタコのなり手がおらず、師匠イタコもすでに絶えてしまった今、その存続は非常に危ぶまれています。

将来的には、青森県いたこ巫技伝承保存協会が後継者の育成を考えているそうですが、このままなにもしなければイタコは絶えていく運命にあるといえるでしょう。

もしも歴史的伝統的イタコが絶滅してしまったら、勝手にイタコを名乗る人があちこちに現れ、宗教詐欺がまん延する可能性があると考えられています。

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口寄せ料は5,000円程度――イタコに見てもらう方法

イタコに見てもらうには、青森県の霊場である恐山に行くと良いでしょう。

ただし、イタコはいつでも恐山にいるわけではありません。

イタコがいるのは恐山大祭と恐山秋詣りのときだけです。

また、予約ができないため、見てもらうには行列に並ぶ必要があります。

それでも、イタコに確実に会うことができるという点でおすすめです。

一方で、上記期間の恐山だけでなく、自宅などでいつでも口寄せを行っているというイタコもいます。

この場合、イタコに直接連絡を取ることで口寄せをしてもらえるそうです。

電話や、なかにはホームページから予約ができるイタコもいるので、恐山のタイミングが合わないという人はこちらの方法を検討してみてください。

なお、口寄せで故人を呼び出すには、故人の名前、没年月日、住所が必要です。

また、33回忌を過ぎた故人は呼び出すことができないので注意しましょう。

さらに、イタコに見てもらうには費用がかかります。

相場は口寄せ1人あたり3,000~5,000円で、2人口寄せしてもらった場合は2倍になります。

加えて、恐山には入山料があるため別途用意しておくようにしましょう。

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心を癒してくれるのが本物のイタコ

イタコは、江戸時代から代々継承されてきた伝統的な文化です。

故人の声を伝える口寄せや、生きている人・神仏を降ろした占いにより、人々の悲しみや悩みに寄り添い、未来に向かって進む力を与えてくれる、カウンセラーのような存在です。

そんなイタコが、実は霊感とは関係なく、修行によって技能を身につけた人たちだということには驚いた人も多いのではないでしょうか。

南部の歴史的伝統的イタコは「オダイジ」と「イラタカ数珠」を持っているため、信用できるイタコかどうか判断するひとつのポイントになります。

また、師匠イタコが途絶えたことや現役イタコの高齢化により、本物のイタコはわずか数人しかいません。

口寄せ料も3,000~5,000円が相場であり、何万円も要求される場合は詐欺の可能性があるため注意が必要です。

時代が変わり技術が進歩しても、愛する人の死は誰にでも必ず訪れます。

あまりの悲しみに、ときには人智を超越した存在に救いを求めたくなることもあるでしょう。

歴史的伝統的イタコは、そのような人々の心に寄り添い、癒しを与えてくれます。

悩みを抱えている人や故人ともう一度話がしてみたいという人は、ぜひイタコに見てもらってはいかがでしょうか。


運営者
かなづち

国立大学にて日本文学を専攻。
一般企業に就職したのち、フリーランスのWebライターに転身。
クラウドソーシングサイトを通じて、大手出版社が運営する本のポータルサイトに書籍レビュー記事を投稿した経験を活かし、2019年に書籍・情報サイト「いかけや日記」を開設。
2020年頃、宝塚歌劇団のファンに。
舞台の原作本を読む機会が増えたことから、2024年、「いかけや日記」を宝塚原作本の紹介を中心としたサイトへとリニューアル。
なお、読書スピードは超スロー。

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