自分にしか果たせない使命がある(『[新版]幽霊刑事』有栖川有栖/幻冬舎文庫)

今回紹介するのは有栖川有栖氏の『[新版]幽霊刑事(デカ)』。

本書には表題作と短編「幻の娘」の2作が収録されている。

「幻の娘」は「幽霊刑事」に登場する早川刑事が主人公のスピンオフ作品であり、後日談だ。

ただし、本作は書き下ろし作品ではない。

本書「あとがき」によれば、「幻の娘」は2008年出版の新潮文庫のアンソロジー『七つの死者の囁き』にすでに収録されている。

同様に、「幽霊刑事」も講談社より2000年に単行本、2002年にノベルス版、2003年に文庫版の3種類が出版されており、その2作を合わせたのが[新版]の本書というわけだ。

私はそのような経緯を全く知らず、本書で初めてこの2作を読んだ。

ここでは、表題作である「幽霊刑事」の魅力を中心に紹介していこうと思う。

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あらすじ

以下に、表題作「幽霊刑事」のあらすじを簡単に紹介する。

主人公の神崎達也は、巴東署刑事課捜査一係の刑事。

同じ巴東署の刑事である森須磨子と付き合っている。

すでにプロポーズをすませており、結婚も間近に控えていたある日、彼は上司の経堂刑事課長に突然呼び出され、わけがわからないまま射殺されてしまう。

この世に未練があるせいか、気がついたら彼は幽霊になっていた。

家族や恋人の須磨子、犯人の経堂課長にさえ神崎の姿は見えない。

しかし、イタコの孫で霊媒体質の後輩・早川刑事にだけは彼の姿が見えていた。

そこで、幽霊となった神崎刑事は自分を殺した経堂課長を逮捕するため、早川刑事とタッグを組んで捜査を開始する。

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不死身だが無敵ではない幽霊刑事

「幽霊刑事」の魅力は、なんといってもタッグを組む刑事の片方が幽霊であり、もう片方が霊媒体質というかつてない組み合わせだ。

しかも殺された張本人が幽霊となって犯人を証言しているのだから、あっという間に事件は解決…と思いきや、そう簡単にはいかないのが面白いところ。

なにしろ神崎刑事の姿を見たり声を聞いたりできるのは相棒の早川刑事だけなので、殺された本人から直接犯人の名前を聞きました、なんて言っても信じてもらえるわけがなく、結局は証拠をつかむしかない。

そうやって始まった捜査には、幽霊ならではの利点もたくさんある。

例えば、普通の人間には姿が見えないので尾行が簡単。

壁をすり抜けることも可能で、どこでも潜入できる。

しかしその反面、物に触れたり動かしたりすることができず、引き出しの中身が気になっても開けることができない。

そこで早川刑事との役割分担が必要になってくるが、彼も彼で下手に動くと周囲から変人扱いされてしまうため、捜査はなかなか進まない。

さらに、作中では主人公が殺された事件以外にもさまざまな事件が発生する。

幽霊といえども、自分が見ていないところで起こった事件は一から推理するほかない。

次々変わる展開に、真相をゆっくり考える暇がなかった。

複数の事件がどこまでどうやって繋がるのか、神崎刑事の目線からともに考えてみてはどうだろうか。

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去りゆく者からの愛のメッセージ

「幽霊刑事」は本格ミステリーでありながら、感動的な恋愛小説でもある。

しかも、カップルのどちらかがエンディングで亡くなってしまう物語はいくつもあるが、本作は彼氏側が亡くなったところからスタートし、死別してもなおお互いを想い合う2人の姿が中心に描かれているところが珍しい。

幽霊になったことでこちらから愛する人のことは見えるものの、こちらの姿は相手に見えず、声も届かず、触れることもできない。

須磨子が辛い思いをしていることがわかるのにどうすることもできず、神崎刑事は苦しむことになる。

今もお互いに愛し合っているのに、上手く想いが通じないところが本当にもどかしく、読んでいるこっちまで苦しくなった。

さらに、彼は捜査の途中で、事件が解決したら自分は成仏して消えてしまうことを知る。

若くして恋人と死別してしまった須磨子に対して、自分以外の男を好きになるなとは言えない。

そんな彼が須磨子に残す愛情も、本作の注目ポイントだ。

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後悔のないように生きたい

推理と同時に恋愛要素も楽しめる本作。

スピーディーかつ予想できない展開で、飽きることなくどんどん読み進められた。

また、結ばれなかった神崎刑事と須磨子の、お互いへの強い愛には思わず涙した。

生きている時間にはみな限りがある。

誰の目にも留まらず、影響力も持たず、生きている実感を得られずにただ時間を過ごすなんて幽霊と同じだ。

本作を読んで、リアルを感じながら生きていきたいと強く思った。

突然幽霊になってしまった主人公が絶望感や虚無感と向き合いながら奮闘する姿に、推理小説ファン、恋愛小説ファンでなくても胸を打たれること間違いなしの感動作。

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