「毎日、同じことの繰り返しだな…」
「世の中の『当たり前』って、なんだか窮屈だ…」
そんな風に、凝り固まった日常に、ほんの少しの退屈さを感じてしまう夜はありませんか?
今日は、そんなあなたの心を解き放ち、常識のタガを心地よく外してくれる、一冊の物語を処方します。
それが、天才・山田風太郎が遺した最後の長編小説『柳生十兵衛死す』です。
この記事を読み終える頃には、あなたの「当たり前」が、根底から揺さぶられる興奮を味わっているはずですよ。
まずは基本情報から|『柳生十兵衛死す』はこんな物語
ご紹介する『柳生十兵衛死す』は、奇想天外な物語で知られる巨匠・山田風太郎が遺した最後の長編小説です。
河出文庫から刊行されており、単なる時代小説の枠を超え、時空をも飛び越える壮大なSF小説の側面も併せ持つ、他に類を見ない傑作と言えるでしょう。
【ネタバレなし】3分でわかる『柳生十兵衛死す』のあらすじ
物語は衝撃的な場面から始まります。
天下無敵と謳われた剣豪、柳生十兵衛の死体が発見されたのです。
脳天に残る、絹糸のような一筋の刀傷。一体、誰が彼を斬ったのか…?
場面は遡り、江戸時代・慶安二年。
柳生十兵衛は、能楽師・金春竹阿弥と出会います。
彼は、芸の極致に至れば、過去の世界そのものへ飛べると語ります。
時を同じくして、室町時代・応永十四年。
十兵衛の先祖であり、同じ名を持つもう一人の剣士・柳生十兵衛が、一休坊主と天才能楽師・世阿弥を窮地から救っていました。
そして、運命の瞬間。
江戸の十兵衛と室町の十兵衛は、それぞれの時代で絶体絶命の窮地に陥ります。
その時、どこからか聞こえる笛、鼓、そして謡の声…。
時空を超えて入れ替わってしまった二人の十兵衛。
彼らを待ち受ける運命とは、そして、冒頭の「死」の真相とは一体…?
私が『柳生十兵衛死す』に心を奪われた3つの理由
なぜこの物語が、退屈な日常に効く処方箋なのか。
私が魂を揺さぶられたポイントを3つ、ご紹介します。
理由1:常識が壊される快感。「能がタイムマシン」という天才的発想
この物語の最大の発明は、「夢幻能」をタイムトラベルの装置として機能させたことです。
「夢幻能とはよくぞ申しました。それは夢幻でござります。が、私の望むところは夢幻ではござりませぬ。この芸のきわまるところ、まったく過ぎし世そのものへ飛ぶことができると信じております」
『柳生十兵衛死す 上 山田風太郎傑作選 室町篇』p.76(山田風太郎/河出書房新社/2020)
作中でこう語られるように、能の「変身」の芸を極めることで、術者は過去へ飛び、呼び出された亡霊(シテ)は未来へ翔ぶ。
この理屈を読んだ時、私は「こんな方法があったのか!」と心の底から痺れました。
SFと時代劇を見事に融合させたこの天才的なアイデアに触れるだけで、凝り固まった頭が柔らかくなっていくのを感じるはずです。
理由2:二人の十兵衛が魅せる「規格外」の生き様
江戸の豪快な十兵衛と、室町の沈着冷静な十兵衛。
彼らは入れ替わった先の時代では、常識を知らない「異物」です。
室町に来た江戸の十兵衛は、遠慮なく「ぐわははは!」と笑い、周囲を困惑させます。
江戸に来た室町の十兵衛は、その陰気さで人々を不審がらせる。
しかし、彼らはそんなことにお構いなし。
自らの剣の腕を頼りに、窮地を切り抜けていきます。
社会のルールや空気に縛られず、己の信じる道だけを突き進む彼らの姿は、周りの目を気にしてしまう私たちの心に、痛快な風穴を開けてくれます。
理由3:最強の男が「死」に向かう、唯一無二の物語
これまでのシリーズとは違い、本作には明確な「絶対悪」は存在しません。
では、何のために戦うのか?
それは、自らの剣を試すため、そして理不尽に屈しないためです。
天下無敵の剣士が、数々の偶然と運命に翻弄されながら、少しずつ「死」へと近づいていく。
その過程が、スリリングで、どこか美しくさえあります。
勧善懲悪ではない、先の読めない物語だからこそ、私たちは最後まで目が離せなくなるのです。
【体験する処方箋】物語を120%楽しむ2つの方法
この奇想天外な物語を、あなたもぜひ体験してみてください。
① まずは、この物語を「読む」体験から
何はともあれ、まずはこの奇想天外な物語を、あなた自身の目でじっくりと味わってみてください。
山田風太郎が仕掛けた壮大なトリックに、きっと心を奪われるはずです。
② 「山田風太郎ワールド」の別の扉を開けてみる
「山田風太郎の、他の作品も読んでみたい!」
そう思ったなら、まずはAudibleで聴ける作品から試してみるのも素晴らしい体験です。
残念ながら本作は対象外ですが、例えば代表作の『甲賀忍法帖』などはプロの朗読家による朗読で楽しむことができます。
耳から入ることで、文字で読むのとは全く違う、情景が目に浮かぶような没入感を味わえますよ。
まとめ:あなたのための「処方箋」を受け取ってください
今回ご紹介した『柳生十兵衛死す』は、単なる時代小説ではありません。
「能がタイムマシンになる」という奇想天外な発想で、私たちの凝り固まった常識を打ち破り、日常に新しい視点を与えてくれる、最高の処方箋です。
もしあなたが、日々の生活に少しでも退屈さを感じているなら。
どうか、この物語を手に取ってみてください。
ページをめくるごとに、あなたの脳が刺激され、心が解き放たれていく、唯一無二の読書体験が待っています。
さあ、あなたの常識を揺さぶる、奇想天外な処方箋を受け取ってください。