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弱者が強者に勝つ(『柳生忍法帖 上・下 山田風太郎ベストコレクション』山田風太郎/角川文庫)

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その生涯に数多くの著作を残した山田風太郎。

彼の作品のなかでも特に有名なのが、『甲賀忍法帖』『伊賀忍法帖』『忍法八犬伝』などの忍法帖シリーズだ。

戦国時代や江戸時代を舞台に超人的な忍者・忍法が登場するところが特徴で、シリーズではあるもののそれぞれが独立した作品となっている。

今回紹介する『柳生忍法帖』もそのひとつ。

本書「編者解題」によれば、始めは『尼寺五十万石』のタイトルで新聞に連載された作品で、単行本化の際に現在のタイトルへ改題されたそうだ。

忍法帖シリーズのなかでも群を抜く長編作品であり、かつては上巻に「江戸花地獄篇」、下巻に「会津雪地獄篇」の副題が付されたこともあったという。

実は、忍法帖でありながら主人公の柳生十兵衛が忍法使いではなく、忍者も登場しない珍しい作品。

しかし、十兵衛はその後『魔界転生』『柳生十兵衛死す』でも主人公を務めており、これらはあわせて「十兵衛三部作」と呼ばれている。

その第一作目にあたる本作では、剣術の達人である十兵衛と武術の達人たちとの戦いが描かれる。

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あらすじ

会津藩藩主・加藤明成の淫虐ぶりに加藤家を見限った家老・堀主水は、一族そろって藩を退転し高野山に入るも、明成の親衛隊・会津七本槍に捕らえられてしまう。

堀主水らを普通に殺すだけでは飽き足りない七本槍は、彼らを江戸へ護送する道中、男子禁制の尼寺・鎌倉東慶寺に押し入り、そこに匿われていた堀一族の女たちを彼らの目の前で惨殺してゆく。

しかしその途中、住持天秀尼の母で将軍徳川家光の姉・天樹院千姫が登場したことにより、かろうじて7人の女だけが生き残った。

女の城を血に染めた会津七本槍は必ず女の手で成敗する――。

天樹院はそう決意し、残された女たちもその後江戸で処刑された父や夫の仇討ちを誓う。

そうはいっても、女だけではとうてい太刀打ちできない。

会津七本槍の背後には彼らを鍛えあげた芦名銅伯という怪しげな老人もいるのだ。

天樹院から相談を受けた沢庵和尚は、彼女たちの指南役に隻眼の剣士・柳生十兵衛を推挙する。

はたして十兵衛は堀の女たちに復讐を遂げさせることができるだろうか。

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敵味方がはっきりした対立関係

本作では登場人物が柳生十兵衛側と加藤明成側にはっきり分かれている。

主に対決することになるのが、お千絵・お沙和・さくら・お圭・お品・お鳥・お笛の7人の堀の女たちと、漆戸虹七郎・香炉銀四郎・司馬一眼房・鷲ノ巣廉助・具足丈之進・平賀孫兵衛・大道寺鉄斎の会津七本槍。

彼らはその人数までぴったり同じだ。

また、堀の女たちを裏から監督するのが柳生十兵衛であるのに対し、会津七本槍の方は芦名銅伯がそれにあたる。

そして、十兵衛の背後には三代将軍の姉君・天樹院と師僧の沢庵が、銅伯の背後には会津四十万石の大名・加藤明成がいる。

そのように見てみれば、十兵衛&沢庵側にとっては会津への旅の途中で沢庵が明成のもとから救い出したおとねが、銅伯&明成側にとっては銅伯の娘で明成の側室・おゆらがそれぞれ助っ人の立ち位置になるだろうか。

作中では加藤明成や会津七本槍のすさまじい暴虐ぶりが描かれるだけに、堀の女たちの仇討ちを誓うひたむきさ、十兵衛の人間くささも際立つ。

善悪の構図が明白な勧善懲悪ストーリーなので、登場人物の裏の顔を疑う必要がなく、話の展開に身を任せるだけでいい。

十兵衛と女たちが次々に敵を倒していくところは、読んでいて胸がスカッとした。

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予想外の手段で相手を追い詰める両者

本作の魅力は、堀の女たちが七本槍を討つ方法も、七本槍が十兵衛や女たちを殺そうとする方法も、どちらも予想外で先が読めないところだ。

なにしろ会津七本槍は全員人並み外れた武術の体得者。

具足丈之進は3匹の巨大な秋田犬を手足のように操り、鷲ノ巣廉助は素手・素足ですべてを貫く拳法の達人、大道寺鉄斎は鎖鎌の達人、司馬一眼房は変通自在の皮鞭の使い手、香炉銀四郎は女の髪で編んだ霞網で人を封じこめ、平賀孫兵衛は先代の賤ヶ岳七本槍ゆずりの槍使い、漆戸虹七郎は会津藩随一の使い手といわれる隻腕の剣鬼なのだ。

さらに、彼らを鍛え上げた芦名銅伯は恐るべきある幻法・忍法の使い手でもある。

対する柳生十兵衛は剣法の達人ではあるものの、直接彼らに手を下すことは許されていない。

あくまでも7人の女たちに彼らを討たせなければならないのだ。

もちろん十兵衛は彼女たちを鍛えはするが、一体どうやって弱者が強者を倒すのだろうか。

また、七本槍側もただ黙って討たれてくれるわけではない。

さまざまな策を巡らせて堀の女たちや十兵衛を見つけ出し、殺そうとしてくる。

しかも、淫虐の限りを尽くす明成の江戸屋敷や会津鶴ヶ城には、それを隠すための秘密の仕掛けがある。

相手の罠にかかった十兵衛たちはその場をどう切り抜けるのだろうか。

さらに沢庵や銅伯が仕掛ける心理戦もあり、一度として同じ展開にならない。

毎回こちらの予想を裏切る驚きとピンチの連続で、読んでいて飽きることがなかった。

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ゲーム感覚でバトルを楽しんで

弱者が強者に立ち向かい悪を倒していく本作。

読んでいるときの気分はバトルゲームをしているときのそれに近かった。

事前にエログロ要素が多い作品だという評判を聞いていたのでそれなりに覚悟していたのだが、私の場合は該当箇所だけ想像力を弱めることで問題なく読むことができた。

ただし、そういった描写は確かにあるので、苦手な読者は注意が必要かもしれない。

その点を除けば、上下巻に分かれている長編ではあるものの、中だるみせずテンポよく読めるはずだ。

勧善懲悪のわかりやすいストーリーであり、エンターテインメント性も高いので、時代小説ファンに限らず幅広い人におすすめしたい作品。


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かなづち

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