生きる人間の複雑な心理(『羅生門・鼻』芥川龍之介/新潮文庫)

学校の授業で文豪の名前と作品名を学んでも、実際作品の内容までは知らないことが多い。

読むべき名作の数は膨大で、そのすべてを読めるとは思わないが、少しずつ読んでいきたいと思う。

そこで、今回は芥川龍之介の作品を選んでみた。

私が読んだ新潮文庫の『羅生門・鼻』には、芥川の歴史小説のなかでも、平安時代から鎌倉時代の作品をもとにした“王朝もの”と呼ばれる作品が収録されている。

スポンサーリンク

収録作品・あらすじ

本書は“王朝もの”の8作品を収録。

  • 「羅生門」…下人の男が羅生門の上で死人の髪の毛を抜く老婆と出会う。
  • 「鼻」…長い鼻がコンプレックスの僧侶が、どうにかして鼻を短くしようとする。
  • 「芋粥」…さえない外見と臆病さで周囲の人間から馬鹿にされる五位の侍が、芋粥を飽きるほど飲むことを夢見る。
  • 「運」…身分の低い若侍が、陶器師の老人から神仏が授ける運についての話を聞く。
  • 「袈裟と盛遠」…袈裟と盛遠の不倫関係をそれぞれの独白によって描く。
  • 「邪宗門」…堀川の若殿様と中御門の御姫様との恋に、摩利の教を広める怪しい法師がからんでいく。
  • 「好色」…色好みといわれる平中が侍従に翻弄される姿を描く。
  • 「俊寛」…俊寛に仕えていた有王が、鬼界が島に流された俊寛を訪れたときの出来事を語る。

ちなみに、『今昔物語集』『宇治拾遺物語』『古今著聞集』などをもとにした「羅生門」「鼻」「芋粥」「運」「邪宗門」「好色」は“説話もの”、『平家物語』『源平盛衰記』などをもとにした「袈裟と盛遠」「俊寛」は“中世もの”とも分類される。

スポンサーリンク

どんな人間でも必死に生きている

本作中の登場人物は、身分が低かったり周囲から馬鹿にされたりと、立場が弱い人間が多い。

それは典拠となっている『今昔物語集』の特徴でもある。

本作ではそのような登場人物の内面がリアルに描かれているので、彼らと自分との間に共通点を見出せる。

彼らに共感できるので、たとえ作中でユーモラスに描かれている人物でも、どこか笑いものにできなくなってしまう。

また、各作品を読んだとき、自分だったらどうだろうかと考えさせられた。

例えば「羅生門」では、自分なら最後どのような選択をするだろうか。

「鼻」では、自分は他人の外見を笑う側の人間だろうか、あるいは他人からの評価を気にしすぎる側の人間だろうか、それともそのどちらでもない人間だろうかなど。

登場人物が特別な存在ではない、ごくありふれた人間だからこそ、普段日を浴びない彼らの物語が身近に感じられる。

どんな人間も悩みながら必死に生きている、それは今も昔も変わらないということを、古典を典拠にすることで表現しているのではないだろうか。

スポンサーリンク

典拠との違い

“王朝もの”を集めた本書は、それだけを読んで楽しんでも良いが、典拠と比較してみると芥川の創作意図がはっきりしてより楽しめる。

例えば「羅生門」は、主に『今昔物語集』巻二十九「羅城門登上層見死人盗人語第十八」をもとにしている。

そして、この話では始めに

摂津ノ国辺ヨリ盗セムガ為ニ京ニ上ケル男
(摂津国のあたりから、盗みを働こうと京に上ってきた男)

『新編日本古典文学全集 今昔物語集④』p.18(馬淵和夫、国東文麿、稲垣泰一:校注・訳/小学館/2002)

とあり、主人公は最初から盗人の設定になっているのだ。

本作では、下人だった主人公が最終的に盗人になるというストーリーに変更されており、ここからも芥川が心の揺れ動きをテーマに描こうとしていることがわかるだろう。

本書では解説のページに各作品の典拠がまとめられているので、それを参考に比較してみても面白い。

スポンサーリンク

エンターテイメント性の高い「邪宗門」

本書のなかで、個人的に面白いと感じたのが「邪宗門」という作品。

短編が多い芥川作品にしては珍しく長編になり得る話だったが、残念ながら未完となっている。

主人公の若殿様と父親である大殿様との対照関係、若殿様と中御門の御姫様との恋愛模様、摩利の教の法師と仏教の法師との法力バトルなど、見どころがたくさんある。

ただし、気になりすぎるところで終わっているので、それが悔しくもあるのだが、自由に続きを空想して楽しみたい。

スポンサーリンク

古典をよみがえらせた名作

平安時代・鎌倉時代の作品をもとに、現代まで通ずる人間の内面を描いた本作。

学生時代に読んだことのある人も、大人になってから読むことで新しい発見があるかもしれない。

注解も充実しているので、芥川作品を読んだことのない人にもおすすめの1冊。

『羅生門・鼻』(芥川龍之介/新潮文庫)を読んだ人は
こちらのブログもおすすめ↓

タイトルとURLをコピーしました