転生した天草四郎らとのバトル(『魔界転生 上・下 山田風太郎ベストコレクション』山田風太郎/角川文庫)


前回に続き、今回も山田風太郎の忍法帖シリーズから『魔界転生』を紹介する(「転生」は「てんせい」ではなく「てんしょう」と読む)。

本作は前作と同じく柳生十兵衛が主人公で、「十兵衛三部作」の第二作目にあたる。

ただし、ストーリー自体は独立したものなので、前作を読んでいなくても問題はない。

ちなみに、本書「編者解題」によると、本作は始め『おぼろ忍法帖』のタイトルで新聞に連載されていたが、1978年に角川文庫から刊行されるに至って『忍法魔界転生』と改題、さらにその後1981年に映画化されたのにあわせて現在のタイトルへ改題されている。

前作と同様、忍法帖シリーズのなかでも質・量ともに群を抜く作品で、角川文庫旧版と富士見時代小説文庫版には上巻に「熊野山岳篇」、下巻に「伊勢波濤篇」の副題が付されていたという。

また、本作は先述した1981年の深作欣二監督による映画を皮切りに何度も映画化・舞台化されている。

2021年にも、柳生十兵衛に上川隆也さん、天草四郎に小池徹平さん、お品に藤原紀香さんという配役で舞台が上演された(※1)。

そのほか、石川賢やとみ新蔵さんなどによるマンガ化作品も存在する。

このように『魔界転生』はさまざまなメディアに広がっているが、その原作本はどのような作品なのだろうか。

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あらすじ

島原の乱が終わった翌日。

宮本武蔵のもとを由比正雪が弟子入り志願に訪れていた。

そこに、討たれたはずの森宗意軒が生きているとの情報が届く。

死体が積み上がる海辺へ向かってみると、森宗意軒が2人の女とともにたたずんでいた。

彼らはそこで、森宗意軒が女の身体から死んだはずの荒木又右衛門と天草四郎を蘇らせるところを目撃する。

何を思ったか、由比正雪は彼らの仲間になることを選び、有明の海を筏に乗って流れていく4人を武蔵は黙って見送るのだった。

森宗意軒が操るこの術こそ、忍法魔界転生。

自らの人生に強い悔いと不満を抱く比類なき体力の所有者を、姿はそのままに魂だけ魔物として再誕させる死者再生の術だ。

その後、森宗意軒たちはこの忍法で新たに田宮坊太郎・宮本武蔵・宝蔵院胤舜・柳生但馬守・柳生如雲斎の5人を転生させる。

その目的は徳川家にたたり、積年の恨みを晴らすこと。

森宗意軒と由比正雪は、将軍家へのクーデターをもくろむ紀伊大納言頼宣に対し、これら7人の転生衆がその後ろ盾となること、もうひとり転生させて仲間にしたい男がいることを告げる――。

そんなある日、紀州藩士の木村助九郎・田宮平兵衛・関口柔心が転生衆たちの存在を知ってしまう。

彼らは転生衆に追われるなか、娘のお縫・お雛・おひろをつれて和歌山を逃れ、助九郎のもとの主家の嫡男、柳生十兵衛のいる大和の柳生谷を目指す。

道中、敵を足止めするために平兵衛・柔心の2人が殺され、あとの4人のみがなんとか柳生にたどり着いたものの、助九郎も瀕死の重傷を負っていた。

彼は最期に自分たちを斬った魔性の敵の名を告げ、彼らが取り憑いた紀州藩と紀伊大納言の未来を十兵衛に託して死んでしまう。

しかし、さすがの助九郎も柳生如雲斎と柳生但馬守の名だけは口にできなかった。

敵に同じ柳生家の人間がいるとも知らず、十兵衛は助九郎の今生の願いを叶えるため、残された3人の娘と柳生十人衆を自称する弟子たちを連れて旅に出る。

彼らを狙うのは、7人の転生衆と女忍者のお蝶・お品・お銭、そして紀州藩が放った根来忍法僧たち。

彼らは柳生十兵衛を魔界転生させ、自分たちの仲間に加えようとするのだが……。

はたして十兵衛は転生衆を討ち果たし、五十五万五千石の紀州藩と紀伊大納言を救うことができるだろうか。

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有名剣豪が夢の共演

前作を紹介したとき、魅力のひとつとして敵味方がはっきりしていることを挙げた。

その点は本作においても変わらない。

一言でまとめてしまえば、本作は柳生十兵衛と森宗意軒の戦いなのだ。

そして、十兵衛側は彼に加えて柳生十人衆(磯谷千八・逸見瀬兵衛・伊達佐十郞・北条主税・小栗丈馬・戸田五太夫・三枝麻右衛門・小屋小三郎・金丸内匠・平岡慶之助)、お雛・おひろ・お縫、そしておひろの弟でわずか7歳の関口弥太郎というメンバー。

一方の森宗意軒側には、転生衆(荒木又右衛門・天草四郎・田宮坊太郎・宮本武蔵・宝蔵院胤舜・柳生但馬守・柳生如雲斎)とフランチェスカお蝶・クララお品・ベアトリスお銭の女忍者、そして30人の根来忍法僧がいる。

お互いにチームを編成しての戦いという点では前作と同じだが、森宗意軒の配下に江戸時代初期の剣豪たちが大集合しているところは本作の特徴であり、最大の魅力ではないだろうか。

実際に活躍した土地や年代はそれぞれ異なる彼らだが、死後に転生することでその辺りの問題をクリアしている。

歴史上の有名人たち、しかも魔人となって蘇った彼らを相手に戦うという設定だけでもゲームのようで面白く、読んでいても十兵衛が勝てるのかどうか、全く想像がつかなかった。

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各々が抱く戦う目的

ところで、先ほど「柳生十兵衛と森宗意軒の戦い」と簡単に述べたが、作中でその構造が完成するまでの道のりはかなり長い。

作中では200ページを過ぎた辺りでようやく柳生十兵衛が登場し、彼が柳生十人衆を連れて旅に出る頃には360ページを超えている。

そのため、先に紹介した本作のあらすじ文はかなり長くなってしまった。

十兵衛はなにも、魔界転生させるべき人物として森宗意軒らに目をつけられたから戦うわけではない。

彼には彼で、転生衆を討たねばならぬ理由があるのだ。

その点を明らかにするためにあらすじ文があそこまで長くなったのだが、結果として上巻の半分以上をネタばらしすることになってしまい申し訳なく思う。

ただし、本作のメインはやはり十兵衛たちと転生衆たちとの戦いだ。

女人たちに敵を討たせた前作とは異なり、今回は十兵衛自身が敵と剣を交える。

具体的に彼らがどのような死闘を繰り広げるかまでは言及を避けるが、毎回ただの真剣勝負ではなく、奇想天外のアイデアが盛り込まれた戦いばかりだった。

ぜひシチュエーションや戦法、柳生十人衆の活躍などに注目しながら読んでみてほしい。

また、柳生十兵衛が登場する前、本作の始め200ページでは、のちに十兵衛の敵となる7人が魔界転生する経緯が語られている。

魔界転生できるのは自らの人生に強い不満を抱いている人物だけ。

武術の道を極めた彼らに、一体どのような不満があったのか。

そして彼らは何を望んで転生する道を選ぶのか。

彼らが少しずつ魔の手にかかっていく展開も注目ポイントだ。

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魔人となってこの世に転生

転生した剣豪たちに柳生十兵衛が立ち向かう本作。

近年流行している異世界転生ものとは違い、もともと最強とされる人物たちが、姿はそのままに魂だけ魔物となって、再び現世に転生する。

天草四郎や宮本武蔵など、歴史的に有名な人物が多数登場しているだけでも魅力的だが、そんな彼らが敵であり、斬っていかねばならないのだから豪華だ。

歴史や剣豪、またそれらをベースにしたゲームなどが好きな人には特におすすめしたい作品。

また、前作『柳生忍法帖』を読んでその後の十兵衛が気になっている人にはこちらもぜひ読んでほしい。

エログロ要素は前作以上に多いものの、無頼奔放でユーモラス、女性に優しい十兵衛に再び会うことができる。

一見すると頼りなさそうだが、実は誰よりも頼りになる十兵衛の姿がとてもかっこよかった。

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参考記事

※1 魔界転生 2021年春

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かなづち

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