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国の、人の、将来を想う(『小説 イタリア・ルネサンス1 ヴェネツィア』塩野七生/新潮文庫)

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今回紹介する『小説 イタリア・ルネサンス1 ヴェネツィア』は、塩野七生さんによる歴史小説。

1993年に『緋色のヴェネツィア 聖マルコ殺人事件』というタイトルで朝日新聞社より刊行された作品を、改題・改稿したものになる。

新しくなったタイトルからもわかるように、本書はルネサンス期のイタリアを舞台にしており、主人公のマルコとその恋人・オリンピアは作者による創作であるものの、それ以外の登場人物はほとんどが歴史上実在した人物だ(※1)。

私は歴史に疎く、ルネサンス期についてもほとんど知識がないため、最初はストーリーについていけるか不安もあったが、いざ読み始めてみると、主人公と一緒に旅をしている感覚で楽しく読み進めることができた。

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あらすじ

舞台は16世紀前半のヴェネツィア共和国。

元老院議員であるマルコ・ダンドロは、会議のため元首官邸へ向かう途中、知り合いの刑事が聖マルコの鐘楼から投身自殺したことを知る。

会議のあと、どうしても先の事件が自殺と思えないマルコが考え込みながら帰路についていると、黒衣の乞食がつけてくる。

その変装の正体は彼の幼なじみでありヴェネツィア共和国元首の息子でもあるアルヴィーゼ・グリッティだった。

20歳のとき以来、10年ぶりの再会を果たした2人。

コンスタンティノープルで商いをしているアルヴィーゼは、元首の孫娘の結婚式と舞踏会に出席するため帰国したという。

だが、マルコは国政に深く携わっていくうちに、アルヴィーゼがヴェネツィア共和国存亡の鍵を握っていること、そして彼がある野望を抱いていることを知る。

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16世紀のヴェネツィア・コンスタンティノープルへの旅

本作は外交官を務めるマルコの目線に沿って物語が進む。

そのため、先にも少し述べたが、彼がヴェネツィアとコンスタンティノープルを行き来することで私たちも彼とともに旅をし、美しい建築物や当時の街並みを目にしている気分を味わえるところが魅力的だと感じた。

作中に登場する聖マルコ広場の元首官邸(ドゥカーレ宮殿)やトルコのトプカピ宮殿などは、現代でも有名な観光スポットなので知っている人も多いだろう。

本作では、主人公のマルコが生きた16世紀当時、これらの建築物がどのような構造でどのように使われていたか、その周囲にはどのような街並みが広がり、人々がどのような暮らしを送っていたかまでが鮮やかに描かれ、まるで自分も16世紀にタイムスリップしているように感じられる。

ヴェネツィアやトルコに行ったことがある人もそうでない人も、この物語を読む前と後ではこれらの都市に対する見方が変わるのではないだろうか。

さらに、単なる旅行ではなく外交目的でこれらの土地を行き来するマルコのもとには、最新の世界情勢や政府の秘密文書など、重要な情報がたくさん集まってくる。

神聖ローマ帝国の皇帝でありスペイン王でもあるカルロス五世が領土を広げるなか、ヴェネツィア共和国は国家の消滅を免れるためにどのような策を講じるのか。

そして、それが果たして成功するのか。

ヴェネツィアだけでなく、トルコ帝国の思惑、さらに各国の君主や政治家をはじめとする個人的な思惑までが交錯し、国が動いていくストーリーにわくわくした。

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国を動かす男の恋

また、本作は国の未来を左右する男たちの恋も注目ポイントだ。

作中では、マルコとオリンピア、アルヴィーゼとプリウリの奥方、スルタン・スレイマンとロクサーナという3組の恋愛模様が描かれる。

政治や国家を担う人間であっても、恋するときは1人の男。

しかし、そのような立場に置かれている男たちだからこそ、好きな女への愛情はときに国家を揺るがす事態にまで発展しかねない。

ただし、ここでは彼らの恋の具体的な内容までは紹介を控えたい。

歴史小説である本作は、当時の文化・政治・宗教・歴史、そしてそれらと関係する登場人物のバックボーンについての説明が、最適なタイミングでなされていることが特徴であり魅力でもあると感じたからだ。

例えば、マルコがアルヴィーゼと10年ぶりの再会を果たした場面では、2人がいつも一緒にいた少年時代についての説明はされるが、なぜ2人が別々の道を歩むことになったのか、そしてアルヴィーゼがマルコと別れてからの10年間に何をしていたのかについては明かされない。

マルコの歩みに合わせて少しずつ事実が明らかになっていくことで、彼と同じ感情を抱けるようになっているのだ。

彼らの恋が歴史にどのように絡んでいくのかは、ぜひ実際に本作を読んで確かめてほしい。

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歴史の目撃者に

16世紀のヴェネツィアにどっぷり浸かれる本作。

愛や陰謀が複雑に絡み合いながら国が動いていく姿に圧倒された。

作中での充実した解説に加え、カラーの口絵もついているため、ルネサンス期の歴史が好きな人はもちろん、あまり歴史に詳しくない人でもスムーズに物語世界へ入っていけるはずだ。

各国の君主だけが国を動かしていたわけではない。

国家の存続が約束されていない世の中で、それぞれの立場を背負いながら、国のため、自分のために戦った人たちがいたのだ。

本作を通じて、そんな人々に思いを馳せてみてはいかがだろうか。

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参考記事

※1 新潮社「『小説 イタリア・ルネサンス』をめぐって(一)」


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かなづち

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