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【宝塚歌劇 雪組公演】原作小説『夢介千両みやげ』:痛快娯楽時代小説の魅力と感想 | あらすじ紹介も

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今回紹介する『夢介千両みやげ 完全版(上・下)』(山手樹一郎/講談社文庫)は、江戸時代を舞台にした痛快娯楽時代小説。

作者の山手樹一郎は、『桃太郎侍』や『遠山の金さん』など、数多くの名作時代小説を執筆したことで有名だ。

本書解説によると、本作は1948~1949年にかけて「読物と講談」に連載されたのち、さまざまな出版社より刊行。

2022年に宝塚歌劇団雪組での舞台化が決定したことを機に、2022年2月、講談社文庫から上下巻の完全版が刊行された。

この完全版には、続編となる『夢介めおと旅』も収録されている。

お金を使って厄介事を解決する一風変わったヒーロー・夢介の物語。

肩の力を抜いて明るく楽しく読むことができた。

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あらすじ

小田原の豪農の息子・夢介は、父からもらった千両で道楽修業をするために江戸へ向かう。

途中、女道中師(スリ)のお銀に百両を盗られるが、夢介は彼女の正体を見抜いたうえでお金をあげてしまうのだった。

そんな夢介のお人好しさに惚れ込んだお銀は、押しかけ女房同然に。

江戸に着いてからも、遊び人の伊勢屋聡太郎やちんぴら小僧の三太など、新しい出会いと同時に厄介事がやってくる。

その度に夢介は生まれつきの怪力とおおらかさ、そしてお金を使って物事を丸く収めるのだった。

しかし、かつて「おらんだお銀」と呼ばれたお銀の気性の荒さも災いし、悪党一つ目のごせん一味に狙われた夢介は、どんどん大きな騒動に巻き込まれていく。

はたして夢介の道楽修業は、そしてお銀との仲はどうなる?

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人が死なない痛快時代小説

夢介の旅は、まさに痛快時代小説の王道。

江戸の町を舞台に、悪党退治や危機一髪の場面が次々と展開する。

普通の時代小説なら、ここで刀と刀の勝負が始まるだろう。

しかし、夢介はピンチのときでも決して暴力を振るわない。

困ったときには悪党相手でもすんなりと大金を出して争いを回避するのだ。

一見、これでは悪党退治にならず痛快さを感じられないのではないか、と思うかもしれない。

だが、彼はただ黙って金を差し出すわけではない。

田舎者丸出しで相手からなめられがちだけれども、夢介は実はとんでもない怪力の持ち主なのだ。

力を使うのはやむを得ない防御のときだけだが、一度その力の強さを知ったら、相手もそう簡単には手が出せない。

夢介もそれをわかっているから、むやみな争いは避けようとするし、彼にとって悪党連中などはまともに相手にするほどの価値もないのだ。

悪党を叩きのめすわけではないが、決して負けるわけでもない。

それに、お銀に危険が迫ったときなど、いざというときにはちゃんと助けに来てくれるヒーローでもある。

血を流さずに次々と危機を乗り越えていくので、生々しい描写がないところも魅力だ。

夢介のお人好しさと優しさ、そしてたくましさに、どんどん魅了されていくことだろう。

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コミカルで魅力的な登場人物たち

本作は、登場人物の個性の豊かさも大きな魅力だ。

夢介はとにかく底抜けのお人好し。

困っている人を決して見捨てない親切な人柄で周囲の人を惹きつける。

最初は田舎者だと彼のことを馬鹿にしていた人たちも、気がついたら彼のことを好きになってしまうのだ。

特に、夢介の押しかけ女房になったお銀は、彼にベタ惚れ。

いいお嫁さんになろうと女道中師からは足を洗うものの、悪党を相手にするとつい「おらんだお銀」の本性が顔を出す、気の強いあねごだ。

女からモテる夢介にやきもちをやきまくり、本気で怒るお銀とそれをなだめる夢介とのやりとりには、思わず笑みがこぼれた。

惚れた弱みで時折見せる乙女な姿もギャップがあって可愛らしい。

また、夢介が江戸で出会ったちんぴら小僧の三太とのやりとりも面白い。

生意気な口をきく子で、夢介やお銀をだまして、わざとお銀にやきもちをやかせることもある。

しかし、それも無邪気さゆえなので全然憎めない。

そのほか、女遊びが好きな伊勢屋聡太郎や娘手品の春駒太夫など、一癖も二癖もあるキャラクターたちが物語を彩っており、彼らが呼び寄せる騒動に夢介は振り回されることになる。

無茶なお願いも快く引き受ける彼のお人好しさに、こちらの心まで温かくなった。

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明るく楽しく読める時代小説

『夢介千両みやげ』は、時代小説の人情とユーモア溢れる娯楽性が絶妙に融合した傑作。

時代小説ファンの人はもちろん、明るい話や勧善懲悪ものが好きな人にもおすすめだ。

人を斬らないので生々しい描写がなく、読みやすいのも嬉しい。

また、個性豊かな登場人物たちとの掛け合いも魅力的だ。

さらに、この完全版には続編の『夢介めおと旅』も収録。

夢介の父・覚右衛門に会いに行く夢介とお銀。

しかし、諸国巡礼の旅を言い渡されてしまうのだった。

こちらも夢介とお銀のラブラブな姿を存分に味わえる作品となっているので、ぜひセットで読んでほしい。

日々のストレスから解放されたいとき、気軽に手に取れる一冊として、ぜひおすすめしたい作品だ。

運営者
かなづち

国立大学にて日本文学を専攻。
一般企業に就職したのち、フリーランスのWebライターに転身。
クラウドソーシングサイトを通じて、大手出版社が運営する本のポータルサイトに書籍レビュー記事を投稿した経験を活かし、2019年に書籍・情報サイト「いかけや日記」を開設。
2020年頃、宝塚歌劇団のファンに。
舞台の原作本を読む機会が増えたことから、2024年、「いかけや日記」を宝塚原作本の紹介を中心としたサイトへとリニューアル。
なお、読書スピードは超スロー。

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