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佇まいの美しい男(『小説 イタリア・ルネサンス4 再び、ヴェネツィア』塩野七生/新潮文庫)

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今回は、塩野七生さんによる歴史小説のシリーズ完結編『小説 イタリア・ルネサンス4 再び、ヴェネツィア』を紹介する。

これまで紹介してきた第1~3巻は、すべて以前刊行された作品を改題・改稿したものだったが、本作だけは書き下ろしの新作だ。

前作が『黄金のローマ 法王庁殺人事件』のタイトルで刊行されたのは1995年のことなので、約25年ぶりの続編ということになる。

前作のラストでローマを発ったマルコ。

本作は彼が再びヴェネツィアに戻ってきたところから始まる。

途中で終わっていたマルコ・ダンドロのその後の人生が、ヴェネツィア共和国の歴史とともに最期まで描かれた。

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あらすじ

ローマからヴェネツィアに帰ってきたマルコは、十人委員会の委員として職場復帰を果たす。

復帰後の仕事では、十人委員会つきの秘書官であるラムージオや、ユダヤ人の医師・ダニエルとの新たな出会いがあり、彼らとは私生活においても親しく付き合う仲になった。

また、アルヴィーゼの娘・リヴィアを尼僧院から出す計画も実行に移し始める。

もちろん、そんななかでもヴェネツィアは大国のスペインやフランス、トルコの脅威に晒され続け、マルコも政府中枢の重要部署を転々としながら政治に携わり続けていた。

しかし、トルコのスレイマンが世を去り、息子のセリム二世が新しいスルタンに就任すると、トルコとヴェネツィアの関係が悪化、ついに戦争へと突入してしまうのだった。

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ヴェネツィアの歴史を支える登場人物たち

本作はシリーズ完結編として前作の続きから始まり、マルコが亡くなるところで終わっている。

そのため、これまでのシリーズに比べて描かれる年月が圧倒的に長く、結果として登場人物もかなり多い作品になっていると思う。

作中では、年月の経過とともにアンドレア・グリッティからピエトロ・ランドへ、スレイマンからセリム二世へ、カルロスからフェリペ二世へ、各国リーダーの世代交代が進んでいく。

それは芸術の世界でも同じで、ティツィアーノの次世代のヴェネツィア派画家として、パオロ・ヴェロネーゼやティントレットが登場。

これまでと同様、本書でもカラー口絵で彼らの代表作を知ることができる。

さらに、あらすじで紹介したラムージオやダニエルなど、マルコと私生活でも付き合うようになる新たな登場人物がいるほか、アルヴィーゼやオリンピアなどおなじみのキャラクターも回想シーンで登場し、アルヴィーゼの娘・リヴィアのその後もきちんと描かれている。

マルコが仕事でローマやコンスタンティノープルを再訪する場面もあり、まさにこれまでの総集編という感じだ。

過去作の登場人物については作中でも改めて簡単な説明がされているため、第1~3巻を読んでから時間が経っている読者でもこれまでのストーリーを思い出しながら読めるだろう。

そしてなにより、後半に描かれるレパントの海戦の場面では、ヴェネツィア海軍総司令官のセバスティアーノ・ヴェニエルや参謀長のアゴスティーノ・バルバリーゴをはじめ、スペイン・ローマ法王庁・トルコ等、各国を代表する指揮官が集結する。

彼らが相まみえて壮絶な戦いを繰り広げるシーンは、本作最大の見どころだ。

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レパントの海戦

レパントの海戦とは、1571年10月7日にレパント沖で行われた、ヴェネツィア・スペイン・ローマ法王庁を中心とするキリスト教連合海軍とイスラム教のトルコ海軍との戦い。

本作ではこの海戦が非常にドラマチックに描かれている。

本隊・左翼・右翼からなる陣型の構成や戦場での動き方、戦況の変化など、細部までリアルに語られていて圧巻の迫力。

その場で海戦を目の当たりにしている気分になった。

また、海戦に至るまでの、戦争を避けるべく説得を続けるヴェネツィアの姿勢、トルコが戦争に踏み切った理由、戦争を決意してからどのようにヴェネツィアがキリスト教の連合艦隊結成にこぎつけ、どのように役職選任が行われたのかといった経緯も詳しく語られる。

外交はもちろん、人事も経営も経験のない私には、その人のどのような性格に目をつけて重要なポストに起用するのか、交渉の際にどう話を進めるのかといった戦略がとても興味深かった。

そのほか、個人的には、スペイン王フェリペ二世の異母弟であり、わずか26歳で連合艦隊総司令官となったドン・ホアンが、徐々に自身の立場を自覚し、フェリペ二世の意向に逆らって出陣を決める展開がドラマチックで好きだった。

それぞれ思惑の異なる国から集まった人々が織りなす人間ドラマも注目ポイントだと思う。

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マルコ・ダンドロとヴェネツィア共和国の結末

イタリア・ルネサンスシリーズ完結編となる本作。

主人公マルコ・ダンドロの人生が最期まで描かれており、その後のヴェネツィアの歴史も知ることができるので、過去3作を読んだ人はぜひ本作も読んでみてはいかがだろうか。

特に、レパントの海戦の場面など、さまざまな国の登場人物が描かれるスケールの大きさは本作の魅力だと感じた。

作中に登場する芸術家たちやカラー口絵を通じてヴェネツィア派絵画の美しさに触れることもでき、ヴェネツィアの歴史と芸術を同時に味わえる作品になっている。

ヴェネツィア共和国の貴族として国政に人生を捧げたマルコ・ダンドロ。

彼からすれば当然の義務を果たしただけなのかもしれない。

だが彼は、常に冷静に現実的な判断を下し、ヴェネツィアが他国の支配下におかれることを防ぎ続けた。

実際のヴェネツィア共和国もきっと、彼のように国を愛し未来を信じた、名もなきたくさんの人々の努力によって永らえていたのだろう。


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かなづち

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