シンデレラやかぐや姫の舞台が未来に(『トランスヒューマンガンマ線バースト童話集』三方行成/早川書房)

『シンデレラ』『竹取物語』などの童話は、誰もが知っているだろう。

しかし、今回紹介する『トランスヒューマンガンマ線バースト童話集』は、これらの童話にSFの要素を取り入れた「SF童話」だ。

その発想だけでなく、ユーモアのある描写や文章の勢いが評価され、第6回ハヤカワSFコンテストの優秀賞にも選ばれている。

SFといえば、現在では存在しない科学技術が登場したり、宇宙が舞台になっていたり、人類に危機が訪れたりと、未来を描いた作品が多い。

本作の舞台も、トランスヒューマンであふれるはるか未来の世界だ。

過去を描いた童話が未来の話になったとき、一体どのようなストーリーに変化するのだろうか。

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収録作品・あらすじ

本書には「地球灰かぶり姫」「竹取戦記」「スノーホワイト/ホワイトアウト」「〈サルベージャ〉VS甲殻機動隊」「モンティ・ホールころりん」「アリとキリギリス」という6つの短編が収録されている。

タイトルからもわかる通り、それぞれ「シンデレラ」「竹取物語」「白雪姫」「さるかに合戦」「おむすびころりん」「アリとキリギリス」が原作だ。

ここで、「地球灰かぶり姫」のあらすじを簡単に紹介しよう。

物語の主人公は、好きな場所に精神を宿らせるのが当たり前の世界において、珍しく基本的人体のまま生きる少女・シンデレラ。

突如現れた〈魔女〉の力で新しい具体と拡張現実ドレスを手に入れた彼女は、『カボチャの馬車』という登録名の小型飛行体に乗って環大西洋連合王国のパーティーに出席する。

しかし、〈魔女〉が指定したタイムリミットが訪れたとき、宇宙でガンマ線バーストが起こり、地球に灰が降り注ぐのだった。

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生まれ変わった童話

本作は古典的な童話をベースにしているものの、時代が未来に設定されているため、あまり聞き慣れない用語が数多く登場する。

「地球灰かぶり姫」だけを見ても、人類の進化形である「トランスヒューマン」はもちろん、精神のバックアップに必要な「大脳皮質活動記録装置(スタック)」、トランスヒューマンをサポートする「従属知性」「社交知性」「身体制御補助知性」などなど。

また、本作ではこれらの世界観に合わせて、童話の重要アイテムもアップデートされているのが面白い。

例えば、シンデレラのドレスは拡張現実スキンに、カボチャの馬車は遊覧用の小型飛行体に、そして彼女が落としたのはガラスの靴ではなく、右足首だ(痛覚は遮断され、足は治療ナノによって再生されるので問題ない)。

各話、なるほどトランスヒューマンの世界ではそうなるのかという驚きがあって楽しめた。

ただし、本作は童話のストーリーをそのままハイテク用語で書き直しただけの作品ではない。

その鍵を握るのが「ガンマ線バースト」だ。

宇宙最大の爆発現象として知られるガンマ線バーストは、地底深くにバックアップを取っているトランスヒューマンを滅ぼすまでには至らなかったが、全地球に甚大な被害を与えた。

原作にはないこの要素が加わることで、それぞれの童話が独自の展開を見せ、読んだことのない新しい作品になっている。

ときには原作があることを忘れてしまうくらい先が読めない展開になるので、童話の結末を知っている人でも退屈せずに読めるだろう。

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ガンマ線バーストでつながる世界

日本・海外のさまざまな童話を改変した本作。

実は連作短編になっており、すべての物語を「ガンマ線バースト」が貫いている。

先にあらすじで触れたとおり、「地球灰かぶり姫」ではストーリーの途中でガンマ線バーストが発生した。

それ以外の5作品も、この「地球灰かぶり姫」と同じ世界の物語として描かれ、ガンマ線バーストの影響を受けたり、バースト後の世界が舞台になっていたりする。

世界観が共有されているため、作品ごとに未来の設定を一から理解し直す必要がないことや、最終話でそれまでの物語が関わってくるところも魅力だ。

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SF小説をあまり読まない人にもおすすめ

エンターテイメント性満載のSF童話集。

SF小説を読んだことがない人でも、童話でおなじみの登場人物が活躍する本作なら手に取りやすいのではないだろうか。

聞き慣れないハイテク用語が多く登場するので最初は戸惑うかもしれないが、意味がよくわからなくても雰囲気だけで楽しめるので、難しく考えずに読み進めてみてほしい。

本作をきっかけにSFに興味を持ち始める人もいるかもしれない。

巻末には「第6回ハヤカワSFコンテスト選評」がついており、どのような点が評価されたのかに注目してみるのも良いだろう。

もちろん、ジャンルに関係なく、改変ものが好きな人にもおすすめだ。

SFファンに限らず多くの人が楽しめる1冊。


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